GREETING

ご挨拶

 十二指腸早期癌や良悪性境界腫瘍に対し、十二指腸部分切除や膵頭十二指腸切除などの高侵襲な開腹手術が行われていましたが、現在では低侵襲な内視鏡的粘膜下層剥離術(以下ESD)が適応されつつあります。十二指腸は腸管が狭く屈曲しているうえに、消化管壁が非常に薄く、更に刺激の強い胆汁や膵液に暴露されるという解剖学的特性から約30%と他の消化管に比べて高確率で術後穿孔を来すことが問題点として挙げられます。十二指腸穿孔が起こると腹膜炎を発症し緊急手術が必要となるため、結果的に高侵襲な治療を要するジレンマを抱えています。これらの背景からブレイクスルーとなる新たな予防法の開発が求められています。
 本研究の目的は、十二指腸ESD後の合併症である十二指腸穿孔に対して細胞シート移植により予防可能か大動物を用いて検証し、新たな予防・治療法を構築することです。我々の教室ではこれまでに、胃穿孔や膵切除断端の膵液瘻に関して、作製した疾患モデルラットに筋芽細胞シートを移植することにより治療し得ることを実証してきました(Tanaka T, Eguchi S, et al.,J Gastroenterol , 2013、Tanaka S, Eguchi S, et al., Surg Today , 2017)。これらの背景から、穿孔しやすい十二指腸ESD術後部位に自己筋芽細胞シートを移植すれば、組織補填と創傷治癒促進を促し、術後穿孔率を下げることができるとの発想に至りました。
 本研究では十二指腸穿孔を予防し得る筋芽細胞(体性幹細胞)シート移植療法の確立と、腹腔鏡下での筋芽細胞シート移植手技確立のため、新規デバイス開発も並行して行います。
共同研究者には形成外科田中教授、消化器内科中尾教授、大阪大学 澤教授、宮川教授、本学工学部の山本教授に入って頂いております。またテルモさんにも研究協力者として、共同研究を行っていきます。長崎大学の重点研究として、臨床試験までを目標に力を合わせて取り組んで参ります。

 

長崎大学大学院移植・消化器外科教授
江口 晋