グローバル化で人類全体の問題となった
熱帯地域の感染症
マラリアやトリパノソーマ症など熱帯地域特有の感染症は、いずれも死亡率が高い極めて危険な病気で、熱帯地域の途上国で暮らす人たちの生活を脅かしています。中でもデング熱などは増加しており、世界中で毎年5000万~1億人が感染していると推測されます。このうち50万人が重症化し、2.5%が死に至っています。
出典:世界保健機関(WHO)
『Working to overcome the global impact of neglected tropical diseases』より
治療法の発達で感染者が減少傾向にあるマラリアやエイズなどの感染症と違って、これらの熱帯感染症は先進国ではほとんど症例がなかったことから、大きな対策が講じられることはなく、「顧みられない熱帯病(NTDs:Neglected Tropical Diseases)」と呼ばれてきました。
一方で新しい感染症も広まっています。SARS(重症呼吸器症候群)や鳥インフルエンザなどはその例です。鳥インフルエンザは2003年11月以降、東南アジアや中東、アフリカなどで感染が確認されており、感染者の半数以上が死亡しています。
WHOの確認している発症者数は計620人(うち死亡384人)2013年2月15日現在
出典:厚生労働省ホームページ「鳥インフルエンザ」資料より改変
NTDsや新興感染症はいずれも熱帯地域を中心とした途上国で発生していますが、そうした地域に世界人口の8割が集中していることを考えると、もはや途上国だけの問題ではなく、地球レベルでの問題と言えるでしょう。経済のグローバル化で人やモノの動きが地球レベルで活発化した現在、一つの国で発生した感染症は容易に国境を超えて伝搬し、先進国をも巻き込み、全世界の脅威となっています。実際、熱帯にしかないと思われていたデング熱が、2000年代に入ってフランスやポルトガルでも流行するなど、熱帯由来の感染症の先進国への流入例が認められます。
不衛生な湖の水を飲料水や洗濯に使うことも
(ケニア西部・ビクトリア湖)
2008年の洞爺湖サミットではNTDs対策がテーマの一つとなり、国際的な重要課題と位置付けられました。感染が広がると、渡航の自粛などで経済活動の停滞を招き、人命はもちろん経済面でも、大きな打撃を人類全体にもたらす恐れがあると認識されるようになったためです。
熱帯地域特有の感染症による被害を食い止めるためには、発生の早期検知と拡散防止、それらを可能にする研究・開発が重要です。しかし熱帯地域の途上国は経済的基盤が不十分なこともあり、早期の対策が十分に行われず、感染が周辺に急拡大しかねません。また病原体は国境に関係なく伝搬するため、発生時には国同士が連携して感染防止にあたることも必要です。
長崎大学が行う研究の一環で、
定期的にマラリア検診を行い薬を処方する。
(ケニア・ビタ地区)
熱帯病や新興感染症の伝搬を防ぐためには、病気の発生地において、先進国が持つ高い技術を利用しやすい形で展開するのが有効です。さらに発生時の多国間の連携など、国際的なリスクマネジメント体制作りも求められます。
長崎大学の「熱帯病・新興感染症制御グローバルリーダー養成プログラム」は、こうした活動に必要な知識を備えたリーダー・専門家を育成するために企画されたものです。