2013年10月18日
橋爪真弘熱帯医学研究所教授の論文がEpidemiology誌のBest paperに
熱帯医学研究所の橋爪真弘教授(長崎大学リーディングプログラム教員)が研究代表を務める研究班の論文がEpidemiology誌のBest paper(2012年)に選ばれました。Epidemiology誌は疫学分野で最も影響力のある学術雑誌のひとつです。
一般的に洪水後は感染症のアウトブレイクが懸念されることが多いのですが、実際に感染症患者が増えたという報告はそれほど多くなく、洪水の健康影響はこれまであまり明らかにされていません。今回、橋爪教授らはロンドン大学衛生熱帯医学校、バングラデシュ国際下痢症研究センター、総合地球環境学研究所と共同で、2004年にバングラデシュで発生した大規模洪水により下痢症や子どもの呼吸器感染症(肺炎など)発生率および死亡率がどれくらい増加するかを厳密に推定しました。
同国デルタ地域に位置するマトラブ地区に住む約21万人の住民を2001年~2007年の間追跡調査した結果、浸水地区では洪水期間中に非浸水地区の約2倍の下痢症発生率が見られました。しかし、浸水地区では洪水以前においても非浸水地区より下痢症発生率が高かったため、洪水以前の両地区の下痢症発生率の違いを考慮して洪水の直接的な影響を推定すると、浸水地区の下痢症発生率は約1.5倍という結果になりました。さらに、浸水地区では洪水の発生に関わりなく雨季になると非浸水地区に比べてより下痢症発生率が高くなるため、季節差を考慮して洪水の直接的な影響を推定すると、両地区の下痢症発生率の違いはほぼ見られなくなりました。洪水が起こると下痢症発生のリスクは高まると考えられていましたが、本研究では厳密に直接的影響を推定した結果、洪水によるリスクの上昇は認めないという結果になりました。これまでの研究は、洪水以前に存在する浸水地区と非浸水地区の疾患発生率の違いや季節による疾患発生率の違いをきちんと考慮して洪水の影響を調べておらず、本研究はこうした要因を厳密に考慮する必要性があることを初めて示しました。なお同様の解析を死亡率と小児呼吸器感染症(肺炎など)発生率でもおこないましたが、死亡率のリスク上昇は認めず、小児呼吸器感染症発生率は洪水後6か月間に浸水により1.25倍のリスク上昇を認めました。
気候変動に伴う異常気象により、地球上では洪水災害の頻度が増加すると予想される地域があります。本研究は、洪水による疾患・死亡の発生を厳密に推定することにより、将来の気候変動に伴う洪水の健康影響を推測するうえで貴重な資料となることが期待されます。
論文要旨は
こちら
からご覧いただくことができます。